「こころ」(夏目漱石)①

読み手の心に鋭く突き刺さる「先生」の言葉

「こころ」(夏目漱石)新潮文庫

「こころ」新潮文庫

夏休みに由比ヶ浜へ
海水浴に来ていた「私」は、
不思議な雰囲気を纏った
「先生」と出会う。
奥様と二人で
静かに暮らす「先生」は、毎月、
雑司ヶ谷にある友達の墓に
墓参りしていた。
「先生」は「私」に何度となく
謎めいた言葉を投げかける…。

夏目漱石の代表作「こころ」。
5年前の2014年が
「こころ」誕生100周年でした。
2014年当時、
朝日新聞には「こころ」が
100年ぶりに
全文再連載されていましたし、
NHK-BSでも
特集番組を放送していました。
私ごときが紹介するまでもなく、
「こころ」は日本文学史上、
最も存在感の大きな作品です。

それでもなおかつ
当サイトで取り上げるのは、
この作品を義務教育段階の
読書活動の到達点と考えるからです。
無駄の一切ない、
結晶化された美しい日本語。
人間の内面を
抉り尽くしたような精神分析。
伏線を幾重にも
周到に張り巡らせた作品構造。
まさに日本文学の
第一級の作品と考えます。

高校の国語の教科書には、
「下・先生と遺書」が
今なお掲載されています。
高校に進学すれば
必ず出会う作品です。
しかし、「こころ」は「下」だけ
読めば良いものでは決してなく、
「上」「中」を読んでから
「下」に出会うべき作品なのです。
だからこそ中学校3年生の段階で、
その作品世界を味わわせたいのです。

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さて本作品、主人公はあくまでも
「上」「中」の「私」であり、
次に重要なのが「先生」です。
ところが、
この二人の交流が描かれているのは
三部構成の中で「上」のみなのです。
したがって、
「上」こそが最も重要な部分であると
私は捉えています。

この「上・先生と私」は
「中」「下」につながる伏線を
数多く含んでいるとともに、
「私」と「先生」、
そしてその間に存在する
「先生の奥さん」の微妙な存在があり、
これ自体で一つの作品として
完結しています。
また、「先生」の語る言葉は、
「私」の心に
刺のように引っかかりながら、
読み手の私たちの心にも
鋭く突き刺さる力を持っています。

「貴方は死という事実を
 まだまじめに
 考えたことがありませんね」

あまりにも
率直な言葉であるがゆえに、
死など毛ほども考えたことのない
若い人間にとっては
これ以上ない鋭い刃となります。

「然し君、恋は罪悪ですよ。
 解っていますか」

恋愛自体に
憧れているような若者には
衝撃的でしょう。

「君、黒い長い髪で縛られた時の
 心持を知っていますか」

妖しげな雰囲気を湛えながら、
冷たい氷を
押し当ててくるような感触で
迫ってくる台詞です。

「かつてはその人の膝の前に
 跪いたという記憶が、
 今度はその人の頭の上に
 足を載せさせよとするのです」

限りない人間不信と
絶望感を感じさせる一言です。

「私は死ぬ前に
 たった一人で好いから、
 他(ひと)を信用して
 死にたいと思っている。
 あなたは
 そのたった一人になれますか」

こんな一言を言われたら、
多くの人は
言葉を失うのではないでしょうか。

鋭利な刃物のように
研ぎ澄まされた言葉を、
飄々と描かれた風貌から発する「先生」。
しかしその後ろに見え隠れする
得体の知れない暗い影。
読みどころ満載の「こころ上」。
ぜひ高校入学前に
読んでほしいと思います。
いや、すでに高校時代に「下」を
読んだにもかかわらず、
まだ全編を読み通していない
大人のあなた。
ここから読みなおしてみてください。

(2018.8.3)

Quang Nguyen vinhによるPixabayからの画像

【青空文庫】
「こころ」(夏目漱石)

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